【相続税の節税対策としての暦年贈与】
ご自分よりも下の世代に財産を残したい場合に、一番効果的なのは生前贈与をはじめることでしょう。
贈与税は、1月1日から12月31日までの1年間に贈与を受けた財産の価額の合計額から基礎控除額110万円を控除した金額に税率を乗じて税額を計算します。贈与税の税率は、受贈財産の金額が高ければ、高いほど、高い税率が適用されることとなっています。
上述のとおり贈与税には、年間110万円の基礎控除額(非課税枠)があります。この非課税枠を有効につかうことで、生前に多くの財産を子や孫の世代に移転することが可能です。
例えば、お子さま2名に年間110万円ずつこれを10年間続けたと贈与すると、総額で2,200万円を無税で移転することができます。
また、贈与税の最低税率(10%)が適用される最高額である310万円を贈与した場合、20万円の贈与税が課税されます。1年あたり310万円を実効税率6.45%で移転することができるということです。相続財産をたくさんお持ちの方で、相続財産に対して課税される相続税率が高い方であれば、かなり有効な財産移転の方法となります。これを子2名に10年続ければ、6,200万円の現金を400万円の税負担で引き継ぐことができます。
上記の例では、現金を例にしていますが、経営する会社の株式をはじめ、現在であればジュニアNISAやNISA口座の開設、生命保険として運用することなども可能です。
なお、不動産については、贈与ごとに不動産取得税や登記費用などが別途かかりますので、これらの手続きにかかる費用についても検討することが必要です。
1年あたりの金額は小さいものであっても、年数を重ねれば重ねるほど効果は高くなります。早めに対策を始めることが重要です。詳しくは、ご相談ください。
【配偶者控除】
1⃣ 概要
結婚後20年以上の夫婦であれば、夫婦間で、現にお住いのご自宅やご自宅用の不動産を購入するための金銭の贈与が行われた場合には、基礎控除額110万円のほかに、最大2,000万円まで控除することができます。
なお、この配偶者控除の規定は、同じ配偶者からの贈与については、一生に一度しか適用を受けることができません。
2⃣ 適用を受ける要件
(1) 夫婦の婚姻期間が、20年を過ぎた後に贈与が行われたこと
(2) 配偶者から贈与された財産が、 居住用不動産であること又は居住用不動産を取得するための金銭であること
(3) 贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与により取得した居住用不動産又は贈与を受けた金銭で取得した居住用不動産に、贈与を受けた者が現実に住んでおり、その後も引き続き住む見込みであること
参考 国税庁HP No.4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除
【直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税】
1⃣ 概要
ご自分の両親や、祖父母などから、マイホームの購入や新築、増改築などのための金銭の贈与を受けた場合において、以下3⃣の要件を満たすときは、2⃣の非課税限度額までの金額については、贈与税が非課税となります。
2⃣ 非課税限度額
イ 住宅用の家屋の新築等に係る対価等の額に含まれる消費税等の税率が10%である場合
平成31年4月1日から 令和2年3月31日までに契約を締結した場合
省エネ住宅等であれば、3,000万円、それ以外の住宅であれば、2,500万円
令和2年4月1日から令和3年3月31日までに契約を締結した場合
省エネ住宅等であれば、1,500万円、それ以外の住宅であれば、1,000万円
令和3年4月1日から令和3年12月31日までに契約を締結した場合
省エネ住宅等であれば、1,200万円、それ以外の住宅であれば、700万円
ロ 上記イ以外の場合(知り合いからの中古住宅の購入など)
平成28年1月1日から令和2年3月31日までに契約を締結した場合
省エネ住宅等であれば、1,200万円、それ以外の住宅であれば、700万円
令和2年4月1日から令和3年3月31日までに契約を締結をした場合
省エネ住宅等であれば、1,000万円、それ以外の住宅であれば、500万円
令和3年4月1日から令和4年3月31日までに契約を締結をした場合
省エネ住宅等であれば、800万円、それ以外の住宅であれば、300万円
※ 省エネ住宅等とは、認定長期優良住宅、認定低炭素住宅などの一定の断熱性能等級や耐震等級を満たす住宅や免震建築物などをいいます。
3⃣ 要件
(1) 贈与を受けた時に、贈与者の直系卑属(贈与者は受贈者の直系尊属)であること。
(2) 贈与を受けた年の1月1日において、20歳以上であること。
(3) 贈与を受けた者の贈与を受けた年の年分の所得税に係る合計所得金額が、2,000万円以下であること。
(4) 平成21年分から平成26年分までの贈与税の申告で「住宅取得等資金の非課税」の適用を受けたことがないこと。
(5) 配偶者、親族などの特別の関係がある人から住宅用の家屋を取得したものではないこと、又はこれらの方との請負契約等により新築若しくは増改築等をしたものではないこと。
(6) 贈与を受けた年の翌年3月15日までに、住宅取得等資金の全額を充てて住宅用の家屋の新築等をすること。
(7) 贈与を受けた時に日本国内に住所を有していること。なお、贈与を受けた時に日本国内に住所を有しない人であっても、一定の場合には、この特例の適用を受けることができます。
(8) 贈与を受けた年の翌年3月15日までに居住すること又は同日後遅滞なくその家屋に居住することが確実であると見込まれること。
参考 国税庁HP No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税
【相続時精算課税制度】
1⃣ 相続時精算課税制度
相続時精算課税制度とは、原則として60歳以上の父母又は祖父母から、20歳以上の子又は孫に対し財産を贈与した場合に、贈与財産から2,500万円の特別控除額を控除することができる制度です。つまり、2,500万円まで非課税で贈与することができます。
ただし、一度この制度を選択すると、それ以降その贈与者からの贈与については、全て相続時精算課税制度が適用されることとなり、暦年課税制度の110万円の非課税の適用が受けられなくなってしまう点について、留意が必要です。
この制度を選択する場合には、一定の書類を添付した贈与税の申告書を提出する必要があります。
また、贈与者である父母又は祖父母が亡くなった時の相続税の計算において、相続財産の価額に相続時精算課税制度を適用した贈与財産の価額を加算して相続税額を計算することとなります。
2⃣ 適用対象者
贈与者は、原則として、贈与をした年の1月1日において60歳以上の父母又は祖父母、受贈者は贈与を受けた年の1月1日において20歳以上の者のうち、贈与者の直系卑属(子や孫)である推定相続人又は孫とされています。
3⃣ 適用対象財産等
贈与財産の種類、金額、贈与回数に制限はありません。
4⃣ 税額の計算
- 贈与税額の計算
相続時精算課税制度の適用を受ける贈与財産については、その選択をした年以後、その贈与者以外の者からの贈与財産と区分して、1年間に贈与を受けた財産の価額の合計額を基に贈与税額を計算します。
贈与税の額は、贈与財産の価額の合計額から、2,500万円(前年以前において、既にこの特別控除額を控除している場合は、残額が限度額となります。)を控除した後の金額に、一律20%の税率を乗じて算出します。
なお、相続時精算課税を選択した受贈者が、相続時精算課税に係る贈与者以外の者から贈与を受けた財産については、その贈与財産の価額の合計額から暦年課税の基礎控除額110万円を控除し、贈与税の税率を適用し贈与税額を計算します。
※ 相続時精算課税に係る贈与税額を計算する際には、暦年課税の基礎控除額110万円を控除することはできませんので、贈与を受けた財産が110万円以下であっても贈与税の申告をする必要があります。 - 相続税額の計算
相続時精算課税の適用を受けた者の相続税額は、相続時精算課税の贈与者にかかる相続税の計算の際に、相続時精算課税の適用を受けた贈与財産の価額と相続によって取得した財産の価額との合計額を基に計算した相続税額から、既に納めた相続時精算課税に係る贈与税相当額を控除して算出します。
その際、相続税額から控除しきれない贈与税相当額があるときは、還付を受けることができます。
なお、相続財産と合算する贈与財産の価額は、贈与時の価額となる点に注意が必要です。将来価値が下がると見込まれる資産は、この制度には不向きということです。