不動産所得の事業的規模と業務的規模
【事業的な規模かどうかで異なる税金の取扱い】
不動産所得を計算するうえで、とても重要な事項が、いわゆる不動産貸付業と呼ばれるような「事業的規模」に該当する不動産の貸付けか、それともワンルームマンション投資のような小規模なものかで、税務上の取り扱いに違いがあることです。
事業的規模であれば、事業所得と同様に取り扱いますが、事業的規模以外(以下「業務的規模」といいます。)である場合には、雑所得に近い取り扱いとされます。
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事業的規模として行われているかどうかは、どのように判定されるのでしょうか?
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「原則として、社会通念上事業と称するに至る程度の規模で行われているかどうかによって、実質的に判断します」とされています。
つまり、貸付資産の規模、賃貸料の収入状況、管理に係る特別の人的・物的施設の設置等の状況などによって判定することになります。
ただし、この判定には、明確な基準がなく恣意性が排除できません。そこで、税務上は、一定の要件を満たせば事業的規模に該当すると判定するものとして、以下の形式基準が設けられています。
建物の貸付けが事業として行われているかどうかの判定
次のいずれかの基準に当てはまれば、原則として事業として行われているものとして取り扱われます(いわゆる5棟10室基準)。
A 貸間、アパート等については、貸与することのできる独立した室数がおおむね10室以上であること。
B 独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること。
なお、貸家と貸室の両方を賃貸している場合には、貸室2室を貸家1棟と換算して判定します。
※ 共有で建物を所有している場合には、共有者の共有持分を合計したところで「5棟10室」の判定を行います。
土地の貸付けが事業として行われているかどうかの判定
社会通念上事業と称するに至る程度の規模で行われているかどうかの判定が難しい場合には、建物の貸付けの形式基準(5棟10室基準)、あるいは、これに準ずる事情があると認める場合を参考に判定することとしています。
A 貸室1室および貸地1件当たりのそれぞれの平均的賃貸料の比
B 貸室1室および貸地1件当たりの維持・管理および地代等の債権管理に要する手間等を考慮し、また地域の実情および個々の実態等に応
じ、1室の貸し付けに相当する土地の貸付件数を、「おおむね5」として判定
⇒ 土地の貸付件数5を貸室1室相当と換算して判定月極駐車場などは、明確に定められている基準はありませんが、上記を準用し、50件以上の貸付けをしていると、一般的に事業的規模に該当するものとして判定しています。
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事業的規模と業務的規模の税務上の取り扱いの違いには、どのようなものがあるのでしょうか?
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不動産経営が、事業的規模であるか、業務的規模であるかにより、取り扱いに以下のような違いがあります。
相違点 事業的規模 業務的規模 青色事業専従者給与 青色申告をしている場合
⇒専従者に支払う適正給与額を必要経費に算入
白色申告をしている場合
⇒適用なし適用なし 事業専従者控除 青色申告をしている場合
⇒適用なし
白色申告をしている場合
⇒配偶者は最高86万円
その他の家族は1人につき最高50万円適用なし 青色申告特別控除 複式簿記に従って取引を記録し、貸借対照表・損益計算書を確定申告書に添付して、期限内申告をする場合
⇒55万円、または、65万円(※)
※ 電子帳簿保存法の要件を満たすか、電子申告(e-tax)による確定申告書の提出10万円 資産損失の取り扱い
(建物などの固定資産が、取り壊し、除却、滅失等の事由によって損失が生じた場合)全額必要経費に算入
⇒不動産所得が赤字となった場合には、他の所得と
損益通算が可能資産損失控除前の不動産所得の金額を限度に必要経費に算入
⇒ゼロ円まで、マイナス分は切り捨て賃貸料等の回収不能による貸倒れの処理 その回収が不能となった年分の必要経費に算入 その回収不能となった賃貸料等の収入がなかったものとして、所得金額を再計算
⇒賃貸料等の発生年に戻って修正(更正の請求)所得税等を延納した場合の利子税 不動産所得に係る利子税について、必要経費に算入 必要経費に算入できない 事業から対価を受ける親族がある場合の必要経費の特例 適用あり 適用なし
豆知識
所得税の条文や記事などを見るときには、『事業』という言葉がよく出てきます。
例えば、
不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業の用に供され・・・
ここでいう事業とは、上記の「事業的規模」を示す言葉で、「業務的規模(事業と称するに至らない程度の業務)」は、含まれません。
一方で、業務的規模を示す場合には、『業務』という言葉が使われます。
例えば、
不動産所得又は雑所得を生ずべき業務の用に供され・・・
似たような言葉ですが、所得税の計算においてはその意味の違いは大きく、示すものが異なりますので注意が必要です。
税金に関連する本や記事を読むときには、注意してみるとよいでしょう。